訪問看護を開業・経営する

2025.10.23

訪問看護ステーション立ち上げを成功させる!基準・流れ・資金のポイント

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こんにちは。利用者様・ご家族に喜ばれ信頼される訪問看護ステーションをつくる一般社団法人SOYの安立あみです。

 

日本では高齢化の進行に伴い、在宅医療の需要が年々高まっています。

その中で、訪問看護ステーションの開設を目指す方も増えていますが、開設を成功させるためには、事前に知っておくべきことが多くあります。

 

本コラムでは、訪問看護ステーションの立ち上げに必要な基準や開設までの流れ、必要な資金、さらに失敗を防ぐためのポイントまでを詳しく解説します。

この記事を書いた人

一般社団法人SOY 訪問看護ステーション管理者安立 あみ

外科病棟を中心に約20年に渡り急性期医療に携わり、検査、処置、入院・手術を含む急変への対応を経験。
病院ばかりではなく在宅医療の重要性を実感するに至り、訪問看護に携わることを決意。
以来、訪問看護ステーションにおいて利用者とご家族のケア並びに従事する看護師の育成とサポートを行なっています。

訪問看護ステーションは、立ち上げられたとしても、安定した運営が難しいことがあります。

人員や設備の基準を満たすことはもちろん大切ですが、それだけでは現場を回すのは簡単ではありません。
開設後の運営も見据え、人材の確保や運転資金の準備、地域の医療・介護機関との連携など、事前にできる対策をしっかり整えておくことが重要です。

このコラムが、利用者様やご家族に安心して頼っていただけるステーションの立ち上げの一助になれば嬉しいなと思います。

訪問看護ステーション立ち上げに際して満たすべき基準

訪問看護ステーションとは、小児から高齢者まで地域の多様な利用者様を対象に、在宅での看護サービスを提供する事業所です。

療養生活の支援、医療処置・医療機器の管理、認知症・精神疾患・重度心身障がい児の看護、ターミナルケア、リハビリテーション、そしてご家族や介護者への支援などを総合的に行います。

 

介護保険法に基づき、都道府県知事(または政令指定都市・中核市の市長)の指定を受け、保健師または看護師が管理者として運営することが定められています。

 

訪問看護ステーションを立ち上げるには、人員基準を満たしていることや、設備および運営基準に基づいて適正に事業を行える体制を整えている必要があります。

 

以下で満たすべき基準を詳しく見ていきましょう。

 

人員基準

訪問看護ステーションの開設には、適切な人員配置が義務付けられています。

 

看護師等の配置要件

保健師、看護師、准看護師を常勤換算方式で2.5名以上配置する必要があります。

このうち最低1名は常勤での勤務が求められるため、実質的には3名以上の看護職員を確保する必要があります。

 

管理者の要件

管理者は専従かつ常勤の保健師または看護師(准看護師は不可)でなければならず、適切な指定訪問看護を行うために必要な知識や技能を有している必要があります。

 

ただし、業務に支障がない範囲であれば、同じ敷地内にある別の事業所・施設での兼任が認められています。

 

その他の専門職

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、訪問看護ステーションの実情に応じた適当数の配置が求められますが、配置は必須ではありません。

 

設備基準

設備面では、適切なサービス提供のため、一定の環境整備が求められます。

 

事務室の確保

事業運営に必要な広さの専用事務室を設けることが必要です。

他事業所等と併設する場合は、機能や会計・経理を分離するなどの要件があります。

 

面談・相談スペース

利用申込の受付や相談に対応するため、適切なスペースを確保する必要があります。

プライバシーに配慮した環境づくりが重要です。

 

必要な設備・備品

訪問看護サービスの提供に必要な設備や備品を揃える必要があります。

事務機器、事務用品、訪問時に必要な物品、移動手段の車両、衛生材料や薬品等の準備が含まれます。

 

感染予防のための汚物処理室や消毒のためのスペースなども確保しましょう。

 

運営基準

運営基準では、適切なサービス提供のための体制や手続きが定められます。

 

基本的な運営要件

サービス内容と手続きの説明および同意取得、サービス提供拒否の禁止、サービス提供困難時の適切な対応、受給資格等の確認などが求められます。

 

連携・協力体制

心身の状況等の把握、居宅介護支援事業者等との連携、法定代理受領サービスの提供を受けるための援助、居宅サービス計画に沿ったサービス提供などが必要です。

 

記録・管理体制

身分証明書の携行、サービス提供の記録、訪問看護計画書および訪問看護報告書の作成、緊急時の対応体制などが求められます。

 

組織運営

管理者の責務、運営規程の策定、勤務体制の確保、衛生管理、秘密保持、苦情処理、事故発生時の対応、記録の整備などが義務付けられています。

 

訪問看護の3つの開設基準については、こちらのコラムで詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。

訪問看護ステーションの開設基準を紹介!開設の流れも

 

 

訪問看護ステーション立ち上げの流れと必要な資金

計算

ここでは、訪問看護ステーションを立ち上げる際の具体的な手順と、各段階で必要となる資金について詳しく解説します。

 

立ち上げの流れ

訪問看護ステーションを立ち上げる流れを見ていきましょう。

 

1. 開業の目的や方針を決める

まず、開業の目的や方針を明確にし、開設の意義・理念・対象者像・サービス方針を検討します。

 

そのためには以下の調査や把握が必要です。

  • 開業予定地域の特性
  • 既存の訪問看護ステーション・医療機関・福祉サービスの状況
  • 提供するサービス内容
  • 連携先
  • 想定される利用者数  など

 

2. 法人を設立する

株式会社やNPO法人などを設立し、法人格を取得します。

すでに法人がある場合は、定款または寄付行為を変更し、訪問看護事業を法人目的に追加して登記します。

 

3. 市町村・都道府県への事前協議を行う

市町村の介護保険担当部署などと面談し、開設の意向や目的、運営方針、開設場所を説明します。
政令指定都市以外の地域に開設する場合は、都道府県知事の指定が必要となるため、都道府県担当者との協議も行います。

 

4. 開設資金を確保する

必要な資金は「設備資金」と「運転資金」に分かれます。

  • 設備資金:事務所の賃料、車両(自動車・自転車など)、事務機器・備品の購入費など
  • 運転資金:人件費(給与・社会保険・福利厚生費など)など

 

なお、事業開始から初回入金までは約3カ月かかるため、3~5カ月分の運転資金を確保しておく必要があります。

 

5. 事業計画を立て、職員・設備を整える

設備整備計画、人員計画、資金計画、サービス計画などを含む事業計画を策定します。
単年度計画に加え、3~5年を見据えた中長期経営計画も立てておくと良いでしょう。

 

6. 設備や書類を整備する

設備基準を満たす施設や備品、運営基準を満たすための書類などを準備します。

 

訪問看護サービスの運営や記録管理には以下の書類が必要です。

  • 管理・連絡調整記録
  • 利用者との契約書類
  • 指定訪問看護関連の記録
  • 運営規程・パンフレット・各種マニュアル など

 

7. 賠償責任保険に加入する

業務中に利用者様やご家族などに損害を与えた場合に備え、損害賠償保険への加入が強く推奨されています。

 

8. 都道府県等へ指定申請を行う

訪問看護事業の指定には2種類あります。

  • 介護保険法に基づく指定:都道府県知事または指定都市・中核市市長による指定
  • 健康保険法に基づく指定:地方厚生(支)局長による指定

 

申請には、申請書のほか事業計画書や就業規則、管理者名簿や、事業所の図面や備品一覧など、先に紹介した2つの基準を満たしていることを証明する書類の添付が必要です。

 

なお、介護保険法の指定を受けると、健康保険法でも同時にみなし指定となります。

 

9. 加算等の体制を届け出る

介護報酬で定められている加算体制や、サービス計画策定に関する事項を都道府県等に届け出ます。

 

10. 業務管理体制の届け出を行う

法令遵守や不正防止、利用者保護を目的として、業務管理体制の整備・届け出が義務付けられています。

 

11. 事業を開始する

指定申請の承認までには、通常1〜2カ月ほどかかります。
開設準備と並行して、医療機関や居宅介護支援事業所へのPR・連携を進めることで、利用者確保がスムーズになります。

 

立ち上げに必要な資金

訪問看護ステーションの開設に必要な資金は、エリアや規模によって異なりますが、一般的に500万〜1,500万円程度が目安です。

 

必要となる主な資金は次のとおりです。

 

設備資金

事業所開設のための初期投資として、以下の費用が含まれます。

  • 物件取得・賃貸費用
  • 会社設立費用・申請手数料
  • 車両や設備、備品の購入費

 

運転資金

開業後の運営に必要な費用で、主に次の項目があります。

  • 人件費(給与・社会保険料など)
  • 広告宣伝費
  • 事務所の賃料、水道光熱費、通信費など

 

資金の調達方法は、自己資金のほか、低金利の公的融資制度を活用する方法もあります。
特に日本政策金融公庫は、中小企業や小規模事業者を対象に低金利での融資を行なっており、民間金融機関より有利な条件で資金調達が可能です。

 

また、助成金や補助金を活用する方法もあります。

詳しくは「訪問看護ステーションの立ち上げに利用できる助成金・補助金をご紹介! 」をご覧ください。

 

 

訪問看護ステーション立ち上げで失敗しないための注意点

訪問看護ステーションの立ち上げでは、あらかじめ課題を把握し、適切な対策を講じることで、失敗のリスクを大きく減らすことができます。

 

特に以下の点に注意しましょう。

 

人材不足への対策

訪問看護業界では慢性的な人材不足が課題となっています。

 

主な原因は、業務の多様さと負担の大きさです。

求人を出しても応募が少なく、人員基準を満たせずに開業できない、あるいは開業後に休止せざるを得ないケースもあります。

採用を円滑に進めるため、魅力的な福利厚生や働きやすい環境を整え、他ステーションとの差別化を図りましょう。

また、研修制度の導入や職場環境の改善で、定着率の向上を目指すことも重要です。

 

介護・診療報酬改定への対応

介護報酬は3年ごと、診療報酬は2年ごとに見直しが行われます。

訪問看護の収入の大部分はこれらの報酬で構成されるため、改定内容によっては経営に大きな影響をおよぼす可能性があります。

 

最新情報を常に把握し、業界動向を踏まえた事業計画を立てること、柔軟な経営判断を行うことが重要です。

 

運転資金の枯渇防止

計画通りに収益が上がらない場合、運転資金が不足するリスクがあります。

そうならないために、余裕を持った資金計画を立てるとともに、定期的な収支の確認を行いましょう。

 

さらに、利用者様の確保に向けた早期の営業活動も継続的に行う必要があります。

 

地域との連携強化

訪問看護ステーションの成功は、地域の医療機関や介護事業所との連携に大きく左右されます。

医療保険対象者は診療所・病院から、介護保険対象者はケアマネジャーを通じて紹介されることが一般的です。

開業前から関係機関へ挨拶回りを行い、ステーションの存在を認知してもらい信頼関係を構築することで、利用者様の安定的な確保と事業成長につながります。

 

 

訪問看護ステーション立ち上げの流れを確認して成功させよう

訪問看護ステーションを立ち上げるには、「人員基準」「設備基準」「運営基準」の3つの基準を満たすことが必須条件です。

 

開業までの流れは、開業の目的や方針を明確にすることから始まり、法人設立、事前協議、資金の確保、事業計画の立案、設備・書類整備、指定申請を経て、事業開始となります。

必要な資金はおおよそ500万~1,500万円程度で、設備資金と運転資金の両方を十分に確保しておくことが重要です。

 

成功のポイントは、人材不足への対策、報酬改定への対応、十分な運転資金の確保、そして地域との連携強化です。

特に、地域の医療機関や介護事業所との協力関係を築くことで、安定して利用者様を確保していくことができます。

 

訪問看護は、病気や障がいを持つ方が住み慣れた地域やご家庭で、本人やご家族の希望に沿って安心して療養生活を送れるよう支援する、社会的に意義のある事業です。

適切な準備と運営を行い、利用者様・ご家族に喜ばれ、信頼される訪問看護ステーションの立ち上げを実現していきましょう。

 

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