こんにちは。利用者様・ご家族に喜ばれ信頼される訪問看護ステーションをつくる一般社団法人 SOYの大山あみです。
認知症を抱えながら自宅で生活を続けることは、ご本人にとっても、介護されるご家族にとってもさまざまな課題があります。
「認知症の家族の在宅介護は可能だろうか」「どんなサポートが受けられるのか」と疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、認知症の方がどのように訪問看護を利用できるか、また認知症の主な疾患や症状、訪問看護で行える具体的なケア内容について解説します。
目次
訪問看護は認知症も利用できる
訪問看護とは、医師の指示に基づいて看護師が利用者様のご自宅を訪問し、医療的なケアや生活支援を行うサービスです。
認知症の方も訪問看護を利用することが可能です。
訪問看護を利用される方の年齢層としては、60歳以上の方が半数以上を占めており、認知症を抱える利用者様も少なくありません。
訪問看護は医療保険と介護保険の両方が適用できますが、介護保険をお持ちの方は基本的に介護保険サービスを優先して利用することになります。
訪問看護で医療保険と介護保険のどちらが優先されるかは、こちらのコラムで詳しくご紹介しています。
訪問看護は医療保険と介護保険のどちらが優先?違いや優先順位を解説
認知症の方への訪問看護では、体調変化を自分で正確に伝えることが困難な場合があるため、看護師が専門的な視点から体調変化のサインを見逃さないよう注意深く観察します。
また、適切なタイミングでの服薬や生活リズムの維持なども重要なケアとなります。
訪問看護の対象者やサービスについては、以下のコラムもぜひご覧ください。
訪問看護とは?対象者やサービス内容、使える保険などについて解説
認知症の疾患と症状
一言に認知症といっても、原因となる疾患や症状はさまざまです。
代表的なものをご紹介します。
認知症の代表的な疾患
認知症には、代表的な4つの原因疾患があります。
アルツハイマー型認知症
認知症全体の約70%を占める最も一般的なタイプです。
脳内に「アミロイド」、神経細胞の中に「タウ」というタンパク質が蓄積することで、神経細胞が徐々にダメージを受け、脳機能が低下します。
記憶障害が初期症状として現れ、進行に伴い判断力や言語能力も影響を受けます。
血管性認知症
全体の約20%を占め、2番目に多いタイプです。
脳梗塞や脳出血などの血管障害が原因で発症します。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病が危険因子となり、脳の血流障害により認知機能が低下します。
障害がある脳の部位によって症状が異なり、段階的に悪化することが特徴です。
レビー小体型認知症
「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質の集合体が脳内に形成されることで発症します。
注意力や思考力の低下に加え、幻視や妄想、パーキンソン症状(震え、筋肉のこわばりなど)が現れることが特徴です。
前頭側頭型認知症(FTD)
前頭葉や側頭葉の神経細胞に異常が生じることで発症します。
初期には記憶障害があまり目立たず、人格や行動の変化が主な特徴です。
感情のコントロールが難しくなり、社会的規範に従わない行動が見られることがあります。
認知症の症状
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の2つに大別されます。
中核症状
中核症状は、脳の障害によって直接引き起こされる認知機能の障害です。
以下のような症状が出ます。
- 記憶障害:新しい情報を覚えることが難しい
- 見当識障害:時間、場所、人についての認識が混乱する
- 判断力の低下:適切な判断ができなくなる
- 言語機能の障害:言葉を理解したり表現したりすることが困難になる
- 注意力・集中力の低下:物事に集中することが難しくなる
- 認知機能の全般的な低下:思考や理解に時間がかかる
周辺症状(BPSD)
周辺症状は、中核症状に加えて環境や心理的要因が影響して現れる症状です。
以下のような症状が出ます。
- 不安や抑うつ
- 興奮や攻撃的な言動
- 幻覚や妄想
- 徘徊や落ち着きのなさ
- 睡眠リズムの乱れ
- 食行動の変化
これらの症状の現れ方や程度は個人差があり、環境調整や適切なケアによって改善することもあります。
訪問看護で行う認知症ケア
訪問看護では、認知症の方に対してさまざまなケアやサポートを行なっています。
その具体的な内容をご紹介します。
全身状態の観察と体調管理
認知症を抱える方は、体調の変化を適切に伝えられないことがあります。
訪問看護では、バイタルサインの測定はもちろん、表情や動き、生活環境の変化なども細かく観察し、利用者様の体調変化の早期発見に努めます。
体調悪化のサインをいち早くキャッチすることで、重症化を防ぎ、安定した在宅生活の継続をサポートします。
また、十分な栄養摂取ができているかの確認や必要な栄養指導も行います。
薬の適切な服用支援
認知症の治療薬や持病の薬を適切に服用することは、症状の安定や進行抑制に重要です。
訪問看護では、認知症の状態に合わせた服薬管理方法を提案します。
例えば、一週間分の薬をカレンダー式の薬箱で管理する、必要に応じて1日ごとに手渡しするなど、個々の状況に応じた方法で確実な服薬をサポートします。
その際、本人の自律性も大切にし、できる限り自分で管理できる方法を一緒に考えます。
身体機能の維持と向上のサポート
認知症の方は活動量が減少しがちで、それに伴い身体機能も低下することがあります。
訪問看護では、日常生活の中で無理なく行える運動や、必要に応じて理学療法士によるリハビリテーションを提供します。
座ったままでもできる簡単な体操や、ご自宅内での安全な移動方法の指導など、状態に合わせた適切な運動プログラムを提案します。
これにより、筋力や関節の柔軟性を維持し、日常生活の自立をサポートします。
日常生活の自立支援
認知症の進行に伴い、入浴や着替え、排泄などの日常生活動作が難しくなることがあります。
訪問看護では、こうした基本的な生活動作を支援しながら、できることは自分でしていただけるよう工夫します。
例えば、入浴が億劫になった方には、好みのバスグッズを用意したり、入浴の手順を視覚的にわかりやすく示したりするなど、その方の好みや習慣を尊重した支援を行います。
利用者様の尊厳を守りながら、清潔で快適な生活をサポートします。
心の安定を図るケア
認知症の診断を受けると、ご本人は不安や混乱、ときに怒りなどさまざまな感情を抱くことがあります。
訪問看護では、こうした気持ちに寄り添い、心の安定につながる環境づくりを心がけます。
落ち着ける空間の確保や、本人の好きな話題での会話、趣味活動の継続支援など、その方にとって心地良い時間を提供します。
また、睡眠リズムを整えることも精神的な安定につながるため、生活リズムの調整も重要なケアの一つです。
ご家族への支援
認知症の方を介護するご家族は、身体的な負担だけでなく精神的にも大きなストレスを抱えることがあります。
訪問看護では、ご家族に対しても支援を行います。
具体的な介護方法のアドバイスや、認知症への理解を深めるための情報提供、ときにはご家族の気持ちを受け止める傾聴など、多面的なサポートを行います。
認知症の症状による言動などを理解することで、介護の負担感が軽減することもあります。
ご家族での介護は大きなストレスになることも少なくありません。
以下のコラムもぜひあわせて読んでみてください。
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訪問看護は認知症も利用できる!心と体、家族の支援も
訪問看護は、看護師が利用者様の自宅を訪れ、医師の指示に基づき医療ケアや生活支援を提供します。
認知症の方へは、体調変化の観察や服薬・生活リズムの維持が特に重要です。
訪問看護では、認知症の方に対して次のようなケアを提供しています。
- 体調変化の早期発見と適切な対応
- 認知症の状態に応じた服薬管理
- 運動やリハビリによる身体機能の維持
- 入浴や排泄など日常生活の自立支援
- 心の安定を図る環境づくり
- ご家族の介護負担軽減のためのサポート
高齢化が進む社会の中で、認知症の方が住み慣れた自宅で安心して過ごすためには、適切な医療・介護サービスの利用が欠かせません。
訪問看護は、ご自宅という環境の中で専門的なケアを提供し、ご本人とご家族の生活を支える重要な役割を担っています。